「イライラする」とは神経が高ぶり苛立っている状態のこと。一方「集中力がない」とは、読んで字の如く、ある事柄に注意を集中させる能力がなくなっていることをいいます。
イライラや集中力低下は誰にでも起こる自然な感情や状態ですが、あまりにも頻繁に起こるようであれば、それは体が発している疲れのサインと考えられます。
情動、思考、記憶、認知、注意、学習、生体機能など、私たちの体の全てをコントロールしている脳。膨大な情報とストレス要因に囲まれた社会に生きる私たちの脳は、常にオーバーワークを強いられています。脳の疲れは、知的パフォーマンスの低下や体調の変化をもたらします。
日常的に使われている「ストレス」という言葉。でも、ストレスとは一体何でしょう?
「ストレス」とは、もともと物理学の分野で、応力(外力を受けた物体内部に発生する内力/抵抗力)を意味する言葉です。外からの力と内側からの抵抗力が釣り合えば、物体は壊れることはありません。外からの力の方が大きければ、当然物体は変形したり歪んだりします。
この言葉を初めて医学用語に取り入れたのは、カナダの内分泌学者ハンス・セリエでした。セリエは「あらゆる要求に対する身体の非特異的な反応(“nonspecific response of the body to any demand”)」を生物学的ストレスと定義しました。言い換えると、外部から刺激を受けた時、これらの刺激に適応しようとして生体に起こる反応をストレスといいます。
「ストレス」というと、自分にとって不快で有害なものと思いがちですが、実はストレスには快ストレス(eustress)と不快ストレス(distress) の2種類があります。前者は嬉しいことや楽しいこと等、体に良い効果を与える刺激のことを指します。
本来ストレスとは反応のことで、ストレスを引き起こす精神的・物理的因子はストレッサーと呼びます。しかし、心身への刺激そのものもストレスと呼ぶことが今では一般的になっています。
セリエは、生体がストレスに晒されると、そのストレッサーの種類に関わらず、3段階の身体的反応経過を辿ることを発見しました。
• 第1段階:警告期
ストレッサーに晒されると、一旦はショック状態に陥り、血圧や血糖値が低下しますが、その後ショックから立ち直り、ストレッサーに適応(抵抗)するために準備状態を作り出します。視床下部―下垂体―副腎系(HPA軸)を通じて、副腎皮質からコルチゾールが分泌され、血圧や血糖値が上昇します。
• 第2段階:抵抗期
ストレッサーと抵抗力が拮抗している時期。ストレッサーに負けないよう頑張っている状態で、多くのエネルギーを消費します。抵抗している間に、ストレッサーの影響が消滅すれば、生体はストレス反応から回復して健康を取り戻します。しかし、ストレスが無くならないまま、それに抵抗するためのエネルギーが枯渇してしまうと、次の疲弊期に移行します。
• 第3段階:疲弊期
ストレスが長期的に続きエネルギーが枯渇した結果、抵抗力や免疫力は低下します。この段階では、心身がストレッサーに抵抗することが困難になり、倦怠感、うつ病、不安、深刻な集中力欠如、睡眠障害など、さまざまな不調が現れてきます。
ストレスの長期化・慢性化は、脳や自律神経、内臓にかなりの負荷を強いることになり、心身が辛い状況に追い込まれてしまいます。
息苦しい、胸が苦しい、不眠、疲労感、倦怠感、頭痛、めまい、震え、胃腸のトラブル、免疫力の低下、性機能障害など。
不安感、イライラ感、うつ病、パニック障害など。
アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症、摂食障害(過食)、喫煙、セックス依存症、買い物依存症、インターネット依存症など。
疾患に起因するイライラや集中力低下もあります。これらの疾患も、生体にとってはストレッサーです。
睡眠不足、低血糖、感染症、歯痛、糖尿病、女性ホルモンの乱れ(月経前症候群、更年期障害など)、甲状腺機能亢進症、片頭痛、自律神経失調症、精神的ストレス、不安、双極性障害やうつ病、統合失調症、アルコール依存、薬物依存、カフェインやニコチンの禁断症状など。
頭部外傷、重金属中毒、感染症、うっ血性心不全、肝疾患、腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、不眠症、低血糖、月経前症候群、自律神経失調症、認知症、ADHD、学習障害、精神的ストレス、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、双極性障害やうつ病、統合失調症、アルコール依存、薬物依存など。
「ストレス研究の父」と呼ばれるハンス・セリエは、有害な刺激(ストレッサー)に対する生体反応において、副腎が非常に重要な役割を果たしていることを示しました。副腎から分泌される複数のホルモンの中でも、コルチゾールはストレスから体を守るのに必要不可欠なホルモンです。
副腎が疲弊していると、必要な時に十分な量のコルチゾールを分泌できず、体の様々な機能に影響を及ぼします。低血糖もそのひとつ。脳の主なエネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)が不足すれば脳の働きが低下するため、頭がボーっとして、物事に集中することが困難になります。また、急性の低血糖症では、イライラや抑うつ感などの気分変動が生じることがあります。つまり、イライラや集中力低下の原因は、副腎疲労に起因する低血糖状態がもたらしている可能性もあるのです。更にコルチゾールは気分やホルモンバランスに働きかける為、イライラと集中力低下に影響を及ぼしてしまいます。
自分に合ったストレス解消法やリラックス法を見つけましょう。
• 音楽でリラックス
ゆったりした曲調のクラシック音楽やヒーリングミュージックは、脳や体を落ち着かせる効果があります。
• 深呼吸
深呼吸にはストレス緩和効果があります。息を深く吸いゆっくり吐き出すことで、緊張や活動を促す交感神経を鎮める一方、心身をリラックスさせる副交感神経を刺激します。
• 睡眠と栄養
ストレスに対抗できる体づくり、そして副腎の健康を守るという点で、睡眠と栄養は極めて重要です。睡眠の時間や質を下げるような習慣は今すぐ改め、バランスの良い食事を心がけましょう。より早く、効率的にストレスに負けない体をつくるには、栄養補給・疲労回復・ストレス軽減・体力向上を目的に配合されたマルチビタミンミネラル(サプリメント)を併せて摂取するのもおすすめです。
• 定期的に運動を。但しやりすぎはNG!
毎日20〜30分でも体を動かすと、ストレス解消と同時に、代謝機能やホルモンバランスを整え、質の良い睡眠をもたらします。一方、過剰な運動は逆効果になりますのでご注意ください。
• 瞑想やヨガ
ストレスレベルを下げる効果がある瞑想やヨガも実践する価値は大いにあり!
• 友人や家族との会話
弱音や辛い気持ちを思い切って吐き出してみると、気持ちが楽になりますよ。
• ストレス緩和に効果的なハーブ
アシュワガンダ、ホーリーバジル、ロディオラ、カモミール、ラベンダー、バレリアンなど。
• エッセンシャルオイルを利用する
ラベンダー、ミルラ、フランキンセンス、ベルガモットなど、リラックス効果が期待できる精油を利用して、心身の緊張を和らげるのもオススメ!
ストレスの種類や、ストレスに対する脳の反応については、当サイト内お役立ち情報の 【疲労の原因と対策】でも詳しく取り上げていますので、ぜひご一読ください。
参考資料 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5915631/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK349158/, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26118248/, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28641541/, https://www.nature.com/articles/nature20473?foxtrotcallback=true, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1838950/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3784865/