過度のストレスや生活習慣の乱れは、不眠症を引き起こすことがあります。そして、不眠症はうつ病のリスクを高めます。それどころか、不眠の症状はうつ病の前兆である可能性も十分あるのです。
「不眠」という響きから、「不眠症=全く眠れない」というイメージを持つ方もいらっしゃるでしょう。或いは、自分は毎晩多少なりとも寝ているから、不眠とは無関係と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、不眠症は皆さんが思っている以上に身近で、いつ自分に起きてもおかしくない症状なのです。
2005年に発行された睡眠障害国際分類第2版によると、不眠症は「十分な睡眠時間と睡眠機会があるにも関わらず、睡眠の開始、持続、安定、または睡眠の質に繰り返し障害が認められ、その結果日中に何らかの弊害がもたらされる状態」と定義されています。
つまり、以下のような症状がみられ、それが日中の活動に支障をきたす状態であれば、不眠症と考えられます。
不眠のタイプは主に以下の4つに分けられます。中には、2つ以上当てはまる人もいます。
不眠症には、明確なストレス要因によって引き起こされる一過性のものと、長期にわたって続くものがあります。
生真面目な性格、精神的ストレス(不安・悩み・ショック)、不規則な生活習慣、精神疾患(うつ病など)、体の病気や症状(発作・痛み・痒み)、薬の副作用、嗜好品の影響(カフェインやアルコール)・・・と不眠の原因は実にさまざまです。
また女性は女性ホルモンの影響を受けるので、男性よりも不眠に悩まされる傾向にあります。
何らかのストレスや不規則な生活が続くと、心身の活動性を上げるコルチゾールと睡眠を促すメラトニンという2つのホルモンの分泌リズムが乱れます。すると、夜になっても脳は興奮したまま、血圧・血糖値は上がったままという状態になってしまい、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅くなるのです。
「眠れないのは脳や体が興奮したままの状態だから」とは一体どういうことなのでしょう?それを解く鍵はコルチゾールにあります。
コルチゾールの分泌は終日一定ではありません。多く分泌されるタイミングは早朝、そしてストレスに直面した時です。
早朝のコルチゾール分泌増は、体内時計が刻むサーカディアンリズムという周期に則しており、その日の活動に備えて心身を覚醒させるためのものです。
一方、ストレス応答としてのコルチゾール分泌増は、体を「戦闘態勢モード」にするためのものです。まずストレスを受けると、脳の視床下部から交感神経を活発化させる信号が発信されます。同時に、視床下部―下垂体―副腎系(HPA軸)を介して副腎皮質からコルチゾールが分泌され、血糖値や血圧が上昇します。このような危機対応システムは私たちが生存する上でとても大切なものです。ところが、ストレスや不規則な生活が続くと、ストレス応答としてコルチゾールがどんどん産生・分泌されるのです。覚醒作用をもつコルチゾール過剰分泌が続けば、眠りにつくことは到底難しく、睡眠サイクルも混乱します。
睡眠は私たちの心身の健康にとって極めて重要です。不眠が続くと疲労感、倦怠感、集中力や作業精度の低下、肌トラブル、頭痛、ホルモンバランスの乱れ、免疫力の低下など、日常生活を送る上で多くの支障をきたします。また、数々の研究により、慢性的な不眠は糖尿病、心血管疾患、肥満、ガンなどのリスクを高め、認知機能低下やアルツハイマー病発症の要因にもなり得ることが示唆されています。
不眠はうつ病患者の多くにみられる症状です。また、うつ病発症・再発の前兆として不眠症状がみられることもあります。言い換えれば、不眠症状に悩まされるようになった時、早い段階で適切に対処することが、うつ病発症・再発の予防につながるかもしれないのです。
不眠症状を抱えるうつ病患者545人を、抗うつ薬&不眠治療薬による処置群と、抗うつ薬&偽薬による対照群分けて、治療効果を観察した研究があります。8週間後、抗うつ薬と不眠治療薬を併用した群は不眠症状だけでなく、うつ症状も(対照群と比較して)大幅に改善していました。この結果は、睡眠の改善が抗うつ効果を高めることを示しています。
不眠症の多くはストレスと、睡眠・覚醒バランスの乱れによるものです。ストレスの原因になるものをできるだけ避けるとともに、生活スタイルや食事を見直すことだけでも、睡眠の質が変わってくるはずです。
病気に起因する不眠であれば、まずはその病気の治療をすることが先決です。病状が改善することで不眠が解消することもあります。
加齢や更年期・閉経によるメラトニン分泌減少は多少なりとも睡眠に影響します。不足分のメラトニンを補うためにサプリメントを活用するのもよいでしょう。
その他には:
ウォーキング、ストレッチ、瞑想、ヨガ、深呼吸、趣味(読書や音楽鑑賞、ガーデニング等)、ペットとの触れ合いなど、自分に合ったリラックス方法を見つけてください。
リラックス効果や安眠をサポートするハーブを摂取するのもおすすめです。このような働きをもつハーブには、カモミール、ラベンダー、パッションフラワー、バレリアン、ホーリーバジル、ローズ、リンデンなどがあります。
また、ラベンダー、ミルラ、フランキンセンス、ベルガモットなど、リラックス効果が期待できる精油を利用して、心身の緊張を和らげるのも良いですよ。
参考資料 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3480567/, https://www.nhlbi.nih.gov/health-topics/insomnia, https://n.neurology.org/content/93/23/e2110, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6433686/, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12482465/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3108260/, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17557453/