急に立ち上がったり上体を起こすと、気が遠くなったりフラフラする──。このような症状は「立ちくらみ」、医学的には「起立性低血圧」といいます。立ちくらみは健康な人でも起こりますが、体が発する不調のサインである可能性もあるので、気をつける必要があります。
俗に脳貧血と呼ばれることがありますが、赤血球やヘモグロビンが少ないことで起こる貧血とは全く異なります。立ちくらみは、急に立ち上がったときに血圧の調整が追いつかず、一時的に脳への血流量とそれに伴う酸素供給が減少した結果生じる症状です。
立ち上がると重力の影響で血液は下半身に集まります。すると、心臓に戻る血液が少なくなるため、心臓から拍出される血液量が減り、血圧が下がります。通常ならば、反射的に交感神経の働きにより末梢血管の収縮と心拍数の上昇が起こり、血圧を回復させます。ところが、このような血圧調節機能に何らかの不具合があると、血圧を回復させることができず、心臓から脳に必要量の血液を送ることができなくなります。これによって脳が一時的な酸素不足となり、めまいやふらつき、ひどい時には失神を起こしてしまうのです。
脳の重さは体重のわずか2〜3%にすぎません。しかし、心臓から全身に送り出される血液量の15%は脳に流れ、全身酸素消費量の20%は脳で消費されます。酸素が遮断されると脳細胞は5分以内に死滅し始めます。低酸素状態がつづくと昏睡、さらには脳死に至ります。
脳は酸素不足に非常に弱いため、脳機能を維持するためには、脳への血流量と酸素供給の安定化は必須です。そのためには、血圧や血液循環を調整する自律神経のバランスを普段から整えておくことが大切なのです。
自律神経の乱れ、脱水症状、心疾患、内分泌疾患、パーキンソン病や糖尿病などによる神経障害、薬の副作用(降圧薬、利尿薬、血管拡張薬、抗うつ薬など)等。
立ちくらみの症状がでたら、まずは安静にすること!しばらくすると回復しますので、その後はゆっくり起き上がるようにしましょう。
疾患や治療薬に起因するものでなければ、日常のちょっとした心がけで立ちくらみを予防したり改善することは可能です。例えば:
前述のような疾患や治療薬以外にも、副腎が疲れていると立ちくらみの症状が現れることがあります。
副腎皮質では「コルチゾール」「アルドステロン」「DHEA」という3つのステロイドホルモンが作られています。長時間のストレスや強いストレスに晒されると、副腎から抗ストレスホルモンであるコルチゾール分泌が増えますが、この状態が長期的に続くと、副腎は疲弊してしまいます。副腎疲労はコルチゾールをはじめとする各ホルモンの産生を困難にし、体に様々な弊害をもたらします。
アルドステロンはナトリウムとカリウムの濃度維持に作用するホルモンで、体内の水分量や血圧に直接影響を与えます。アルドステロン分泌が低下すると、ナトリウムと水分量が減り、血圧が下がります。(逆に、アルドステロン過剰分泌になると、ナトリウムと水分が増加し、血圧上昇を引き起こします。)
副腎疲労によってアルドステロン産生・分泌が低下してしまうと低血圧になるため、立ちくらみが起こりやすくなります。また、副腎疲労になると「塩辛いものを食べたくなる」という症状が出ることがありますが、これは体内のナトリウムが不足しているというサインです。また、喉が乾きやすいのは脱水している証拠です。
まずは副腎疲労の予防・改善に努めることが大事!ストレス解消や生活習慣の改善を日頃から心がけてください。これは副腎だけでなく、自律神経のバランスを整えるのにも有効です。また、副腎機能を回復させるために必要な栄養素を食事やサプリメントで補うこともお忘れなく。
参考資料 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10884461/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2949253/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3060355/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3060355/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279079/, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279079/